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映画ランナー

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企画 2018年03月26日

”雨のシーン”について考える。映画をもっと面白く観る為に

シネマラマ

page:3 - 私が最も好きなプロポーズシーン

雨によって手紙を泣かせることもできますが、『シェルブールの雨傘』では神、そこまで言わなくともカメラが泣いているようにもできるのです。

 

雨の中のプロポーズ

最後は私が最も好きなプロポーズシーンについて。

それは映画ではなく、ドラマです。しかもコメディドラマのワンシーン。それは『The Office』というアメリカのドラマです。

残念ながら日本では見ることが難しい作品なので、簡単に概要を説明します。

このドラマは紙を売る「ダンダー・ミフリン」というオフィスの日常を追ったモキュメンタリースタイルのコメディドラマです。

(モキュメンタリー:撮り方はドキュメンタリー形式だけど内容は全くのフィクションという偽ドキュメンタリーとも云われるスタイル。例としては『食人族』『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『クローバー・フィールド』等)

 

このドラマの中心人物であるペンシルバニア支店のボス:マイケルは人事部の女性ホリーにロマンティックなプロポーズがしたいと部下たちに相談します。

 

部下の一人が「僕は雨の中、プロポーズしたよ」と言うと、

マイケルは「最悪の天気の中のプロポーズが完璧だなんて言うなよ(笑)」と言います。

 

そして、彼と部下たちが考え出したプロポーズは、彼女のオフィスにロウソクの火を灯し、部下たちも火のついたロウソクを持って二人を囲みプロポーズをさせるというものでした。

 

その様子に驚いたホリーに向かってマイケルがプロポーズをしようとしたその瞬間、

ロウソクの熱によって天井にあった火災報知器が鳴りだし、スプリンクラーから水がまるで雨のように降り注ぎ始めます。

二人は大笑い。そしてマイケルは指輪を取り出し、室内の雨の中プロポーズをして見事ホリーに婚約を受け入れられます。

屋内の中で雨を降るシチュエーションを生み出しただけで大変素晴らしいのですが、実は続きがあります。

 

雨が表情を変える

雨はまるで二人を祝福するようなものとして降り注いでいます。しかし、マイケルは喜んでいる部下たちに思いがけないことを告げます。

 

「私はホリーと一緒にコロラドに行く。ここを離れるんだ」

 

さっきまで喜んでいた部下たちがその言葉を聞き、呆然とします。

つまり、マイケルが仕事を辞めて、結婚を機にホリーの為にペンシルバニアからはるか遠く離れたコロラド州へ行くことを突如告げられたのです。そして空しく響き渡るスプリンクラーから流れる水の音、彼らの困惑した表情を映したまま幕を閉じます。

 

この雰囲気の転換が非常に上手い。

つい先程まで祝福のシャワーだった雨が、ある一言によって突然の別れを告げられた部下たちの困惑や悲しみを表現する雨のように変わる。

しかもこのお話のラスト十秒ぐらいの出来事です。

 

雨という表現に二面性を持たせ、喜びから悲しみへと鮮やかに転換させ、ドラマチックなプロポーズと衝撃の告白の両方に劇的な効果を与えています。

コメディドラマでありながら、雨という表現方法を使った中でも最高峰の演出の一つだと私は考えています。

 

 

最後のひとこと

“雨”と“涙”というのは古来から自然とつながりを連想されるものらしく、日本では古今和歌集の中にも小野篁が

「泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに」

と涙が雨となって降って欲しいという気持ちを込めています。

千年以上前から雨と涙に繋がりがある感覚があったことだけでも昔の人と私たちの感情は変わっていないことを感じグッときますが、この歌は涙が雨となって欲しい理由は「雨がとっぷりと降ってくれれば、三途の川の水かさが増し、つまりは激しい流れになってくれたのならば、死んだあの人が三途の川を渡れずに帰ってくれるかもしれないから」という超ロマンティックでオリジナリティ爆発の歌です。

閑話休題。

天候と私たちの感情を結び付けて描くということは全く新しいものでもなく、かつ今なお非常に効果的な表現方法であるのです。雨は数多くの詩、小説、映画、ドラマ、アニメに降り注ぎ、物語や表現に大きな恩恵を降り注いできました。

天からの恵みはこれからもずっと降り止むことはないでしょう。

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